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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)115号 判決 1981年1月28日

控訴人 山崎隆介

右訴訟代理人弁護士 小沼清敬

被控訴人 神奈川県

右代表者知事 長洲一二

右訴訟代理人弁護士 山下卯吉

右指定代理人 中澤雄生

<ほか二名>

主文

本件控訴及び当審における新請求をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決主文第二項中控訴人の被控訴人に対する敗訴部分を取消す。

2  被控訴人は控訴人に対し金四三一三万八五六〇円及び内金四一二三万八五六〇円につき昭和四八年八月三〇日から、残金二〇〇万円につき昭和五三年一二月二七日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(当審において請求の一部減縮)

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

旨の判決並びに仮執行の宣言

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二主張

原判決事実摘示中該当部分を引用する。ただし次のとおりその一部を改め、または付加する。

一  控訴人

1  損害及び損害額の主張(原判決九枚目裏六行目冒頭から同一四枚目表七行目末尾まで)を原判決の損害及び損害額の認定及び判断のとおり(同三二枚目裏四行目冒頭から同三七枚目表八行目末尾まで。ただし同三行目「四の2ないし5」とあるのを「三の2ないし5」と、同七行目「被告戸辺、被告寺澤」とあるのを「被控訴人」と、それぞれ改める。)に改める。

2  同一四枚目表九行目冒頭から同裏一行目末尾までを「よって控訴人は被控訴人に対し、国家賠償法第一条一項に基づき金四三一三万八五六〇円及び内金四一一三万八五六〇円に対する本件不法行為の日の後である昭和四八年八月三日から、残金二〇〇万円につき原判決言渡の日の翌日である昭和五三年一二月二七日から、いずれも支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払え。」と改める。

3  原判決一四枚目裏一行目と二行目の間に次のとおり加入する。

「6(当審における新請求)被控訴人の公権力の行使にあたる公務員である訴外中山佐蔵、成田昭二、三枝木藤三及び小池英雄の四名は、本件実況見分実施に際し、道路の交通安全のため車両の通行の制限等の措置をとり、道路の管理にあたっていたところ、十分な安全措置のとられる前に控訴人を道路内に入れて実況見分をしたため本件事故が惹起されたものである。右は国家賠償法第二条一項の「道路の管理に瑕疵があったため他人に損害を生じたとき」にあたるから、控訴人は被控訴人に対し本件事故によって控訴人が受けた前記の損害の賠償として、前同様の金員の支払いを求める。

二  被控訴人

1  控訴人主張1の事実は、弁護士費用に関する点を除き、その余を認める。

2  同2及び3の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  まず、控訴人の従前の請求(国家賠償法第一条第一項に基づく請求)について判断する。

1  右請求についての争点は、訴外中山、同成田、同三枝木、同小池が本件実況見分に際して安全のためにとった措置の如何及びその際同人らに過失があったか否かの点であり、請求原因事実中その余の点は当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すると以下の事実が認められる。

(1)  本件事故現場は、藤沢市城南四丁目一番二一号先の地点で国道一号線藤沢バイパス上にあり、右国道一号線は本件事故現場附近では高さ五センチメートル、幅四〇センチメートルの中央分離帯により戸塚方面への上り車線と茅ヶ崎方面への下り車線に区分された幅員一五メートルの南北に直線状に走るアスファルト舗装道路で、戸塚方面(南)から茅ヶ崎方面(北)へわずかに下り勾配となっており、上り車線、下り車線とも二車線で最高速度は時速七〇キロメートルに制限されこれに用田から辻堂駅に至る東西に走る幅員八メートルの道路が直角に交叉しており、右交差点は自動信号機によって交通整理が行われている。

本件事故現場の位置、周囲の状況は原判決添付見取図のとおりである。

(2)  本件事故発生当時、夜間であったが、本件事故現場附近の国道一号線は照明によって約三〇〇メートル程見通しがきき、交通量は少く、路面は降雨のため濡れていた。

(3)  控訴人は、昭和四六年二月一二日午後一〇時二五分頃、茅ヶ崎方面から戸塚方面へ向かって普通乗用自動車を運転して国道一号線上り車線を進行し本件交差点手前まで進行したとき、対向する下り車線を進行してきて急に右折した訴外伊藤博運転の軽四輪自動車に走行を妨害され、右軽四輪自動車との衝突を避けるため右に転把したところ路面が濡れていたのでスリップし、右折のため本件交差点南の一時停止線附近のセンターライン上で停止していた訴外田中義一運転の普通貨物自動車に衝突し別件事故を起した。別件事故発生後、右軽四輪自動車がそのまま走り去って行くので控訴人は自車を運転してこれを追尾し追いつき、訴外伊藤博とともに午後一一時過ぎ頃本件事故現場附近へ戻り、訴外田中義一の連絡を受け本件事故現場に到着していた警察官、訴外伊藤博、同田中義一と事故処理を協議したが、控訴人が首の痛みを訴えたので、警察官は人身事故として処理することとし、藤沢警察署交通課事故処理班の出動を要請した。

(4)(イ)  中山、成田、三枝木、小池は、被控訴人神奈川県藤沢警察署交通課所属の警察官であるが、同日午後一一時二五分頃別件事故発生の連絡を受け交通事故処理班として事故処理車を運転して同日午後一一時三〇分頃、本件事故現場に到着した。

(ロ) 中山は巡査部長として別件事故の実況見分の指揮を執り、下り車線に赤色燈のついた事故処理車を配置して下り車線を閉鎖し、上り車線のみで上り、下りの車両を通行させることとし、交通を規制し、しかも、本件事故現場は用田から辻堂駅へ至る道路との十字型交差点であるから、国道一号線は信号機の信号燈が青色になったときに上り方向への自動車と下り方向への自動車を交互に通行させる方法を採ることとした(これによると、下り方向の自動車は、事故処理車の手前で警察官の指図に従い、一旦、上り車線に進入し本件交差点内茅ヶ崎よりの部分で、再び、下り車線に戻って通行することとなる。)。そこで、中山は成田、三枝木、小池に右交通整理の方法を指示するとともに、戸塚方面の交通整理を三枝木、茅ヶ崎方面の交通整理を成田に命じ、本件交差点西の辻堂駅に至る道路北側に停止していた前記パトロールカーの警察官二名にはそれぞれ用田方面と辻堂駅方面の交通整理を指示し、小池には別件事故の実況見分実施の補助を命じた。

(ハ) 三枝木は、戸塚方面の交通整理のため、事故処理車を本件交差点南端から戸塚寄り約五〇メートルの下り車線中央に置き、赤色燈を回しながら下り車線を閉鎖し、事故処理車の近くに誘導板を置き、又、事故処理車から北に本件交差点に向け下り線上に中央分離帯に沿って約七ないし八メートル間隔で高さ七〇センチメートルの円錐形のセーフティコーンを数箇置き、自らは事故処理車の手前に位置して下り車両の誘導に当り、小池は、本件交差点から南の戸塚寄りに右同様中央分離帯に沿って七ないし八メートル間隔で約三箇のセーフティコーンを置き、又、成田は茅ヶ崎方面の交通整理のため、赤色燈と停止棒を所持して本件交差点北の上り車線の歩車道との境で横断歩道北端附近に位置した。その際、中山、成田、三枝木、小池は、それぞれ夜光塗料を塗ったヘルメットをかぶり、ジャンパーを着用し、又、誘導板、セーフティガード、セーフティコーンは、夜間でも自動車運転者が確認できる仕組になっていた。

(ニ) 中山は、成田、三枝木、小池が交通整理のための右準備を終了し、所定の位置につくまで、控訴人、訴外伊藤博、同田中義一らから本件交差点の北西角の空地で別件事故の事情聴取をしていたが、午後一一時三五分頃、右準備が終了したことを確認したのち、控訴人、訴外伊藤博、同田中義一とともに国道一号線上に入り、本件交差点南側横断歩道附近下り車線上で、まず田中車の位置を確かめ、更に、控訴人車、伊藤車の位置関係を確かめようとしていた。

その際、国道一号線の上下車線の信号機の信号燈は停止(赤色)で、右信号に従い本件交差点北の停止線手前中央分離帯寄りには大型貨物自動車を含む三台の自動車が停止しており、成田は、横断歩道附近の自動車に近付き赤色燈と停止棒で合図をし交通方法を指示し、次の自動車に同様の注意を与えようとしていた。

(5)  そのとき、訴外戸辺和洋は国道一号線を戸塚方面へ加害車を運転して南進したが、眼鏡使用の免許条件に反してこれを使用せず、しかも運転開始前に飲んだ酒の酔いのため前方注視困難となり、ハンドル、ブレーキ等も正確に操作しがたい状態のまま、前照灯を下向きに時速七〇キロメートルの速度で運転を継続した過失により警察官の交通整理、本件交差点の停止信号を無視し、停止中の自動車を追越すにあたり運転を誤り本件交差点の手前約四五メートルの地点で加害車を反対側の下り車線に暴走進入させ控訴人に衝突し傷害を負わせ、なお、原判決添付見取図×(2)点で中山、同×(3)点で訴外伊藤博に対してもそれぞれ衝突し、中山に加療三週間を要する右顔面挫創、右肘部打撲、右膝部打撲、右腎部打撲の傷害、訴外伊藤博に加療約二週間を要する左鼠蹊部挫傷、右足背挫傷の傷害を負わせた。戸辺は、ブレーキもかけず、そのまま進行し、運転を誤って斜めに停止したところを午後一一時四五分、警察官に現行犯逮捕された。

戸辺は、同月一三日午前〇時五分、飲酒探知器によって呼気中のアルコール濃度を調査され、呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコール分を保有していることが検知された。

以上の事実が認められ、《証拠省略》中、本件事故発生前警察官がセーフティコーンを本件交差点から北の茅ヶ崎寄りに中央分離帯に沿って数本を置いた旨の部分は前掲証拠に照らし措置できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

3  ところで、警察官が道路上に発生した事故現場において実況見分を実施する場合、事故の情況を説明する事故関係者、参考人等の生命、身体に危険が及ばないようその安全を確保すべき注意義務があることはいうまでもなく、右安全確保の方法は、要するに実況見分を行う周辺道路の交通を規制し、その附近を通行する車両に右規制がなされていることを周知させて事故の再発を予防する措置を講ずるにある。本件において、規制区域の戸塚方面側は、下り線上に赤色燈を回転させる装置のついた事故処理車と誘導板を配置し、さらに三枝木が現場に位置して茅ヶ崎方面に向う車両の誘導に当っていたもので、その措置内容は十分ということができるが、茅ヶ崎方面側は、何らの物的設備を施さず、横断歩道の北端歩道との境あたりに成田が一名のみ位置して戸塚方面に向う車両の誘導に当ったに過ぎないのであって、この場合青信号の期間を利用して上り下り交互の一方通行を行わせるためには、信号青であるに拘らず、相当時間車両を停止線の位置で停車させることとなり、何台かの車両がたまりその行列が長くなることも考えられるから、このような場合の交通規制の方法としては行列の先端にあたる位置に人を配置しなければならない(本件の場合の成田)のはもちろんのことであるが、行列の末尾にも人を配し、燈火を持たせるなどして、青信号であるに拘らず、停止の必要のあることを後続車に早めに知らせる必要があるというべく、その措置を怠るときは、後続車が青信号で停止している車両に追突する危険があることを否定できない。それ故右措置を講ずることなく、交通規制が完了したものとして実況見分を開始した中山には過失があったといわざるをえないが、本件事故は飲酒のうえ眼鏡使用の条件違反を犯した訴外戸辺が交差点から約四五米のところから中央分離帯を乗り越えて下り車線に侵入し停止信号を無視して七〇キロの速度で暴走してきた結果発生したものであるから、中山が前記の処置を講じていたとしてもなおかつ本件事故が発生した可能性を否定することはできない、すなわち中山の過失と本件事故との間の因果関係を肯定することはできないというべきである。なお、控訴人は、中山らが茅ヶ崎方面の路上にセーフティコーンを置いたり、茅ヶ崎方面下り線上にパトロールカーを配置しなかったことをもって、中山らの過失をいうが、本件規制の方向として、その必要のなかったことは前認定の事実関係に照らして明らかであるから、中山らに右過失があったということはできないし、その他中山らに過失のあったことを窺わせる資料は見あたらない。

それ故控訴人の国家賠償法第一条第一項に基づく請求は理由がない。

二  控訴人は中山他三名の警察官は、道路内での実況見分のため車両の通行の制限等の措置をとり道路を管理していたものであるから、右警察官に主張のような過失があることは同法第二条第一項の「道路の管理に瑕疵があったとき」にあたると主張するけれども、右法条にいう「道路の管理」とは「道路の維持、修繕並びに保管」をいうものと解され、警察官が行う道路上の規制措置はこれにあたらないと解すべきであるから、控訴人の右主張はそれ自体失当である。

三  それ故、控訴人の本訴請求はいずれも棄却すべきであり、国家賠償法第一条第一項に基づく請求を棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、同法第二条第一項に基づく新請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)

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